日々の思いを本気で伝える!修造コラム

2013年04月18日報道ステーション 荻野公介選手~前人未到の5冠スイマー

競泳の日本選手権をご覧になって、驚かれた方も多かったのではないのでしょうか?

僕もその一人です!

萩野公介選手(18歳)が、史上初の5冠達成です!!

 

2012年7月のロンドンオリンピック、4つの泳法すべてを一人でこなす400m個人メドレーで日本男子史上初となる銅メダルを獲得した萩野選手。

この日は、日本競泳会の歴史を変えた日として、僕も強烈に覚えています。

あれから9ヵ月、4月11日まで行われていた日本選手権で、また新たな歴史が刻まれました。

400m個人メドレー決勝で圧勝すると、200m自由形では、松田丈志選手を破って2冠。

100m背泳ぎ決勝では、オリンピック銅メダルの入江陵介選手も破って3冠。

さらに、400m自由形、200m個人メドレーでも優勝し、史上最多の5冠です!!!

タイムは、全種目においてロンドンオリンピック6位以内という驚異的なものでした。

 

この春、高校を卒業したばかりの萩野選手の、この別次元の強さはいったい何なんでしょうか?

その強さの秘密を、「技術」「データ」「恩師」という様々な着眼点から検証した結果は・・・

そりゃもう強いわけですよ!

 

2002年に日本選手権4冠の記録を持つ萩原智子さんが着目したのは、萩野選手の泳ぎ。

手の先から足の先までが一直線になっていて、水の抵抗を受けない泳ぎなので、

無駄なエネルギーを使わない。

この泳ぎが、平泳ぎ以外のどの泳法でもできるのが萩野選手の強みなんだそうです。

また、背泳ぎの50mのターンにも強さの秘密があるそうで、

ターン後のバサロキックでは、壁を蹴るとすごい勢いなので、

体幹が弱いと体が上下左右にグネグネと曲がってしまうのですが、

萩野選手はここでも体を一直線に保てるんだそうです。

 

萩野さんの強みが”あるデータ”に出ていると教えてくださったのは、日本水泳連盟科学委員の岩原文彦さん。

それは、練習中のデータで出てきた萩野選手の乳酸値。

乳酸とは、激しい運動をすることにより、筋肉の中に生成される物質で、

一般的には、疲れたときに溜まる「疲労物質」としての悪いイメージがあるかもしれませんが、

近年の研究では、正反対の解釈、ずばり「乳酸は出る方がいい!」んだそうです。

乳酸の新しい解釈は、「持てる力をどれだけ出し切れたか」ということ。 

なので、乳酸が高いというのは、「疲れている」ではなく、「全力を出せた」ということなんだそうです。

岩原さんは、最初は「測定ミスなんじゃないか」と思うほど、

萩野さんの乳酸値が高く、驚かされたといいます。

激しい運動後の乳酸濃度(ミリモル)が、過去のオリンピック代表が約15ミリモルなのに対し、

萩野選手は21ミリモル!

この数値を聞いて、萩野選手はガッツポーズ!

タイムが出るよりうれしいかもとまで思ったそうです。

それは、タイムが遅くても、乳酸値が出ていれば、それだけ自分が努力している証しだからと。

萩野選手は、他の選手よりも、持っている力を存分に発揮できるからこそ速いんですね。

 

でも、ここで素朴な疑問・・・

それだけ持てる力を出し切ってしまったら、1レース泳ぐだけで精一杯だと思うんですが、

中でも、大会2日目は、たった20分の間に2冠目と3冠目を獲得!

ほんとどうなってるんでしょう???

 

競泳解説の高橋繁浩さんが、まず力説されたのは、「リカバリー力」。

わずかな時間の中で回復する能力がすごいんだそうです。

もちろん選手たちは、レース後すぐに疲れをとって、普通の状態に戻すことに努めますが、

サブプールに行って、軽く泳ぎながら、体を動かして血液の循環をよくする、といったレース後のクールダウンは、萩野選手と他の選手を比べても特に変わったことはしていませんので、

この点での萩野選手の驚異の回復力の理由は詳しく分かっていません。。。

 

萩野選手の強さを支える理由はまだあります!

その一つが、環境の大きな変化です。

今年、萩野選手は、北島康介選手を育て上げた平井伯昌コーチのもとに入門。

12月くらいから練習をやり始めて平井コーチが感じたことは、

萩野選手の才能は、ロンドンオリンピックのときに開花していたのではない、

スケールがすごく大きくて末恐ろしいくらいだということ。

中でも、平井コーチが驚かされたというのが、練習の厳しさ。

厳しい厳しい厳しい練習でも、明るい雰囲気でこなすのが萩野選手なんだそうです。

 

萩野選手が小学3年生から高校3年生まで通っていた御幸ヶ原スイミングスクール(栃木県宇都宮市)で、萩野選手を教えていた前田覚コーチは、当時を振り返ると、

小学校3年の頃から、中学生・高校生にならないとできないような大きな泳ぎをしていて、

当時から全国大会でも敵はいないほどの才能があったそうで、

天才少年としてメディアに取り上げられることも少なくなかったとか。

高まる期待とともに、どんどん厳しくなっていく練習。

中でも「耐乳酸トレーニング」というとてもキツいトレーニングがあり、

全力で何本までいけるか、そういう練習をかなり積んでいたそうで、

萩野選手は、子どもながらに、よくこんな苦しい練習を作れるなと思ったそうです。。。

あまりの苦しさに、水泳から逃げだしそうになったこともあるそうですが、

そこであきらめなかったからこそ、今の萩野選手がいるんですね。

 

追い込みに追い込んで手に入れたロンドンオリンピック銅メダル。

そして、史上最多の日本選手権5冠。

しかし、底知れる可能性を僕が最も感じたのは、萩野さんの言葉でした。

それは、200m背泳ぎで、入江選手に敗れ、2位となったレース直後のこと、

「まだまだ課題があるということで、水泳って面白いなって思いました。

自分には伸びしろしかないと思っているので、しっかりと1回1回の練習を頑張っていきたい」と。

 

「伸びしろしかない」。

萩野選手は今回の5冠に満足することなく、相当先を見ているなと感じましたね。

今回僕がビックリした感覚は、実はロンドンオリンピックでも味わったんです。

それは、フェルプス選手やロクテ選手がいる中で、400m個人メドレーで銅メダルを獲ったとき、

僕は大興奮で話を伺ったのですが、萩野選手はまったく興奮することなく冷静で、うかれた様子もなく、すでに次を見据えている感じで、この選手は絶対強くなるなと思った瞬間でした。

まさに冷静と情熱の間にいる選手ですね。

 

7月には、スペイン・バルセロナで世界選手権も開催されます。

この大会でも、日本代表の活躍、そして萩野選手の驚愕の泳ぎが楽しみでたまりません!